R.N.Elliottが過去80年間の株価変動を分析し、1930年代半ばに提唱した波動原理であり、筆者の
投資スタイルに最も影響を及ぼした原理である。電磁場の波動や流体の波動問題を多数解析してきた
筆者のとって、エリオットの分析手法は非常に繊細かつスマートに感じる。
デグリーの分類等非常に難しい問題を内包しているため、解釈の仕方で個人差が大きくなるものの、
その基本的な考え方について、学ぶべき所は大変多い。
図は
エリオット波動原理の基本概念を説明したものである(図をクリックしてご覧下さい)。
エリオットは波動の期間から以下の9デグリーに分類した。
- Grand Super Cycle: 200年以上の周期。
- Super Cycle: 約50年周期。コンドラチェフ・サイクルに相当する。
- Cycle: 約10年周期。ジュグラー・サイクル(設備投資循環)に相当する。
- Primary: 1~4年周期。キチン・サイクル(在庫循環)に相当する。
- Intermediate: 数週間~6ヶ月周期。
- Minor: 数週間以下の周期。
- Minute: 1週間程度の周期。
- Minuet
- Subminuet
エリオット波動の基本概念は以下の通りである。
- 長期の株価変動は、「推進5波動」と、その後の「訂正3波動」で構成される。
- 「推進5波動」は3波の推進波(第Ⅰ波、第Ⅲ波、第Ⅴ波)と2波の訂正波(第Ⅱ波、第Ⅳ波)で構成される。
- 「訂正3波動」は2波の推進波(A波、C波)と1波の訂正波(B波)で構成される。
- 推進波はより下位デグリーの「推進5波動」で構成される。
- 訂正波はより下位デグリーの4種類の「訂正波動」のいずれかで構成される。
- 下位デグリーの「推進5波動」および「訂正波動」も、さらに下位デグリーの推進波と修正波で構成される。
- 特徴ある推進波の上昇率、下落率はフィボナッチ比率を使って予測可能である。
各波動の特徴を理解し、長期、中期、短期および超短期における現在の投資対象がど波動にあるかを把握し、
適切な売買タイミングを見極めることは、トレーダーに取って非常に重要である。
以下に、上昇相場の推進波と訂正波の特徴を示すが、下落相場においても同様である。
第Ⅰ波(第1波)
ファンダメンタルズは弱いが、目先筋の打診買いなど、足の速い資金により作られるため、推進3波動の中で最も弱く短い。
Cycleデグリーの第1波は「理想買い相場」あるいは「金融相場」として知られている。トレーダーは、まず
この第1波を探すことに注力すべきであろう。
第Ⅱ波(第2波)
ファンダメンタルズは相変わらず弱気投資家の投売り等によりジグザグ型の訂正波動になりやすい。このため、第1波
上昇幅の50%~62%程度(この数値は
フィボナッチ比率に由来)の下げになることが多い。
超短期の第3波に乗るためには注意して観察すべき重要な波動と言える。
第Ⅲ波(第3波)
一般に、推進波の中で最も長く、価格変動も大きい。ファンダメンタルズが好転し、強気相場が徐々に正当化され、
さらに第1波の頂上を越えた時点で、ダウ理論やポイント・アンド・フィギュアの買い信号が出るため、出来高も膨らむ。
Cycleデグリーの第3波は「現実買い相場」あるいは「業績相場」として知られている。
また、
エクステンションの可能性が最も高いのもこの波である。
前述の(この数値は
フィボナッチ比率から、この波動による上昇幅は、
第Ⅰ波(第1波)のそれの1.38倍、1.5倍、1.62倍およびその整数倍の可能性が考えられる。
この局面では、小さなリスクで大きな収益を上げることが出来るため、トレーダーは見逃すことが出来ない。
逆説的に言えば、さらに下のデグリーも含めた第3波動を如何に多く見つけ出し、
如何にタイミング良く乗り降りするかでトレーダーの優劣が決まると言っても過言ではない。
第Ⅳ波(第4波)
利益確定売りと出遅れた参加者の買いが拮抗する局面である。第2波に比較して大きな下げにはならない。
したがって、第4波の底は必ず第1波の高値より高い。これを満足しなかったとすれば、それは第4波ではなく、
依然第2波が続いていると解釈すべきである。また第4波の高値が第3波の高値を越えることも珍しくは無い。
ただし、
ダイアゴナル・トライアングル(斜行三角形)と呼ばれる
エリオット波動の変形例では例外もある。
第Ⅴ波(第5波)
楽観的な投資家が多くなるが、第3波に比較して出来高や価格上昇は劣る。
Cycleデグリーの第5波は「人気買い相場」として知られている。
また、オシレータ系指標に
ダイバージェンス
が現れ始めるため、トレーダーはこれを見逃すべきではない。特に、
フェイリャーが発生した場合は、上昇相場の衰えを警告している
と考えられるので注意が必要である。
A波(a波)
この局面ではまだ強気な投資家も多く、株価下落時に出来高が増加する。
B波(b波)
下落相場の訂正波動であり、株価が上昇しても出来高は増加しない。
CycleデグリーのB波は「中間反騰相場」として知られている。
通常は第5波の頂上を越えることなく、三尊パターンを形成するが、
場合によっては第5波の高値を越えることがある(イレギュラートップ)ので、
誤解しないよう注意が必要である。
C波(b波)
この局面では多くの投資家が弱気になって行く。
特にA波の底値を割った付近から、売りが売りを呼ぶ展開となり、加速度的に下落することが多い。
エリオット波動原理はダウ平均等の平均指標の変動から導かれたものであるが、人間の心理・感情がマーケットに反映
された結果を解析しているため、特定の機関のみが影響を及ぼす仕手株や、出来高の少ない不人気株を除けば、個別銘柄
でも適用することは可能である。しかし、個別銘柄によって参加している投資家の性格が異なるため、
株価変動も個別株ごとに特徴を持ち、またこの特徴は時間と共にあるいは突然に変異することがある。
したがって、個別銘柄へ適用する場合は、あらかじこの特徴を十分把握する必要があり、
また変異を起こしていないか常にチェックする努力を怠らないことが重要である。
エリオット波動原理用語集
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エクステンションとは、推進波の一つがさらに5波動に別れることにより、大きな価格変動を引き起こす局面を言う。
推進5波動の一つの推進波がエクステンションを起こすと9波動になる。また、エクステンションの中で
エクステンションを起こすこともあり、この場合は13波動となる。エクステンションの特徴は以下の通り。
- エクステンションのエクステンションも含め第3波で起こる確率が高い。
- ある推進波でエクステンションが発生すると他の推進波はエクステンションを起こしにくい。
-
フィボナッチ比率をご存じない方も、黄金分割((√5-1):2=1:1.618)なら耳にしたことがあるだろう。
安定した美感を与える長方形の縦横比とされており、国旗、名刺あるいは書籍等、数多く使用されている。
また、ギゼーにあるクフ王のピラミッドの高さ:底辺もほぼ黄金比率になっており、エリオット波動原理
考案のきっかけになったとされる。
フィボナッチ数列とは、次の関係を持つ数列である。
N(i) = N(i-1) + N(i-2)
ここで、 N(i) は第 i 項目の数値を表す。
ウサギのペアの増え方を計算する手法として、13世紀にイタリアの数学者フィボナッチ(本名レオナルド・ピサノ)
が導入したものである。具体的には、
1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, ・・・
で表される。この数列の特徴は以下の通りである。
- 2 x N(i-2) + N(i-3) = N(i) (最初の2項を除く)
- N(i-1) / N(i) = 0.618 (最初の4項を除く)
- N(i) / N(i-1) = 1.618 (最初の4項を除く)
- N(i-2) / N(i) = (0.618)2 = 0.382 (最初の4項を除く)
- N(i) / N(i-2) = (1.618)2 = 2.618 (最初の4項を除く)
これらの数値に最初の4項から得られる数値を加えて、0.382, 0.5, 0.618, 1.0, 1.382, 1.5, 1.618, 2.618
がフィボナッチ比率と呼ばれ、サポートラインやレジスタンスラインの予測に使用される。実際、筆者も、
第2波の安値の推定や、第3波の高値推定に頻繁に利用する。
-
第5波の高値が第3波の高値に届かない局面。
フェイリャーは
フォーメーション分析におけるダブルトップ
(下落相場の場合はダブルボトム)を形成することになる。したがって、フェイリャーは相場反転の信号と
考えることが出来る。
-
ジグザグ型(下降相場の訂正波は逆ジグザグ型):2波の推進波(A波、C波)と1波の訂正波(B波)で構成される。
ジグザグ型には単純型と複合型がある(詳細は参考文献(2)参照)。
フラット型(下降相場の訂正波は逆フラット型):ジグザグ型の最初の推進波(A波)が3波動の訂正波に置き換わった
型である。
トライアングル型(下降相場の訂正波は逆トライアングル型):ジグザグ型、フラット型とは異なり5波構成となる。
エリオットは「トライアングル型は稀であり経験では第4波として現れるだけ」と言及しているが、第4波あるいはb波に見られる。
このパターンは、フォーメーション分析では長期フォーメーションの
トライアングルフォーメーションあるいは短期フォーメーションのペナント型に相当し、
中期フォーメーションのウェッジ型とは意味合いが異なる。
水平型(下降相場の訂正波は逆水平型):トライアングル型と同様5波構成となる。
フォーメーション分析では短期のフラッグ型として分類される。
トライアングル型と同様超短期相場には頻繁に見られる型である。